« オバマ大統領就任に思う(3) | トップページ | 映画ゲバラ二部作(2) »

2009年2月 1日 (日)

オバマ大統領就任に思う(4)

メディアではアメリカ合衆国(米国)史上、初めてのアフリカ系(黒人系)大統領誕生、という点に関心が集まる。

The World Fact Book,2008CIA)から推計すると、中南米(ラテンアメリカ。旧スペイン・ポルトガル領のイベロアメリカ。旧フランス領ハイチは除く。以下ラ米)の黒人は飛び抜けて最大のブラジルの約1,200万人を含む2,000万人となる。黒人で大統領になったのは、ドミニカ共和国で1882年から暗殺されるまでの17年間、事実上の最高権力者だったウリセス・ウロー(Ulises Heureaux)がいる。この国は現在でこそ黒人は人口の11%を占めるだけだが、1821年にハイチに併合された関係で、その名残から44年以降の建国期には、黒人の比率はずっと高かった。ウローもフランス語圏の名前だ。その後は、黒人の大統領は出ていない。ブラジルにも、その他黒人人口が多いラ米諸国にも、彼以外で大統領になった黒人はいない。

一方米国で圧倒的に少ない先住民をみよう。同じく、ラ米ではメキシコの3,200万人を含む計6,200万人と推計できる。十九世紀央のメキシコでレフォルマ(改革)運動や抗仏戦争時の指導者だったフアレス、ペルーでフジモリ退陣後のトレド、及び2006年からボリビアのモラレスの3人が大統領になった。ついでながら、フジモリは唯一のアジア系だ。メキシコは今でこそ全人口の30%だが、独立時に過半数を占めていた。ペルーは現在全人口の45%、ボリビアは55%を占める。先住民比率が高い国としてはあとグァテマラとエクアドルがあるが、こちらの方はまだだ。先住民は固有の言語を持つ。共同体の中で生活し、スペイン語社会との交流を持たず、従ってこどもが学校教育を受けないところも多い。

ラテン民族がアングロサクソンに比べ人種偏見が薄いから混血が進んだ、という無邪気な講釈がある。

ムラートとは、白人と黒人の混血を言う。同様にラ米全体で9,300万人と推計できる。この内ブラジルは人口の39%だから7,400万人、これに続くのはドミニカ共和国で700万人(人口の73%にもなる)。ブラジルで大統領になったムラートは、私には思いつかないが、ドミニカ共和国には多い。1930年から暗殺されるまで31年間、この国を支配したトルヒーヨもそうだった。キューバもムラートの比率は51%で、カストロが追放したバティスタもそうだった、と言われる。

白人と先住民の混血、メスティソは1.5億人ほどになりそうだ。6,600万人がメキシコ、2,600万人がコロンビアと、これも集中する。メスティソの最高権力者は方々に輩出した。代表的なカウディーリョ(私のホームページ「カウディーリョたち-ラ米建国期」http://www2.tbb.t-com.ne.jp/okifumi/CI4.htm参照)の多くがそうだ。

The World Fact Book,2008CIA)では米国自体の白人比率を80%とする。これには全人口の15%を占めるヒスパニック(中南米系)は含まれないので、概ね2億人、という計算だ。ラ米十九ヵ国の場合は1.9億人と推計でいるので、絶対数はあまり違わない。だが比率では35%に過ぎない。歴代の大統領は、上記の例外はあるが、全体としては白人が殆どだ。その例外にしても、カウディーリョや軍人出身の独裁者に多い。米国同様、最大二期務めるだけの大統領が交代していく前提で、黒人、先住民、ムラート、メスティソが白人に伍して大統領になれるのが当たり前になって、初めて人種偏見が薄い、と言えよう。

最後に、女性大統領が出ている、という点でラ米が米国に先行していることを述べておこう。米国で女性に参政権が付与されたのは1920年、民主党のウィルソン第28代大統領(1913-21)のときだ。パナマに25年、アルゼンチンに27年、チリに30年、ニカラグアに35年も先行した。ところが、すでに上記4ヵ国には女性大統領が誕生している。最も早いニカラグアのバリオス・デ・チャモロ(1990-97)は、反ソモサ運動の指導者で且つ暗殺されたチャモロ未亡人、次のパナマのモスコソ(1999-2004)は、劇的な政治人生を歩んだアリアス元大統領の未亡人だから、特殊なケース、という人も、チリのバチェレ(2006-)、アルゼンチンのフェルナンデスには脱帽されよう。後者は、キルチネル前大統領夫人で、1年ほど前までは南米のヒラリーと言われた。ヒラリーは民主党候補選で負け、クリスティナ(フェルナンデス)は大統領選で勝った。ヒスパニック系米人はオバマよりヒラリーを応援したようだ。

|

« オバマ大統領就任に思う(3) | トップページ | 映画ゲバラ二部作(2) »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。