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2009年1月29日 (木)

オバマ大統領就任に思う(3)

アメリカ(米国)の前ブッシュ政権時代の8年、ラテンアメリカ(ラ米。旧スペイン・ポルトガル領のイベロアメリカ)の政権地図が大きく変った(私のホームページ「ラ米の政権地図」http://www2.tbb.t-com.ne.jp/okifumi/CI3.htm参照)。政権が中道右派だったブラジル(2002年)、アルゼンチン(03年)、ウルグアイ(05年)、グァテマラ及びパラグアイ(08年)が中道左派に、ボリビア(06年)、ニカラグアとエクアドル(07年)では左派に移った。より左傾化したのはパナマとペルーも同様だ。一概には言い切れないにせよ、左傾化はより米国離れに繋がる。それまで米州におけるリーダーたる米国に対し露骨な敵対言動を繰り返してきたのは、一時的な例外を除けば、キューバだけだった。これにベネズエラとボリビアの反米言動が加わり、BRICsの一角を占めるブラジルにも、抗米的言動が目立つ。ラ米全体として、米国に批判的になっている。

ブッシュ前政権の対ラ米外交で目立ったのは麻薬問題、テロ指定組織に対する軍事支援、対キューバ制裁強化ほどで、全体として見れば静かだった。スペイン語も解し何か押し付けたわけでもない彼にラ米諸国側が反発し、対米関係がギクシャクしたのは意外だった、とも言える。いわゆるテロとの戦争で、力ずくで米国価値観を他国への押し付ける姿が、過去の高圧的な米国の対ラ米関り方を思い出させたのかも知れない。

ラ米史を紐解くとラ米に対する米国の関りの大きさに驚く。1821年、エクアドル、ペルー、ボリビア及びキューバを除くラ米が宗主国から独立を果たして間もない頃に、米州のことは米州の自決に委ねよ、と迫った「モンロー宣言」。今や米国の誰も考えもすまいが、対メキシコ戦争を理由付けた1840年代の「明白な宿命(Manifesto Destiny)」思想。キューバの独立革命とパナマのコロンビアからの分離独立に介入するなどの「棍棒政策(Big Stick Diplomacy)」とドミニカ共和国及びニカラグアでの事実上の米軍統治(二十世紀初頭)。米州内民主主義体制を前提とした「善隣外交(Good Neighborhood)」(193040年代)と米州集団安保を唱えるリオ条約(1947年)、及び米州機構(OAS)創設(1948年)。ラ米の貧困撲滅を促した「進歩の為の同盟(Alliance for Progress)」(1961年から数年)とキューバ革命転覆を狙うピッグズ湾事件への関与、ドミニカ内戦への軍事介入(1965年)。米軍のパナマ侵攻(1989年)。最近では、事実上破綻したが、「米州自由貿易地域(FTAA)」構想。麻薬撲滅を図る「プラン・コロンビア」への国際支援主導。枚挙にいとまがない。

米国は、政権が共和党であれ民主党であれ、経済体制は国家による介入を最小限に抑える市場主義が絶対であり、社会主義中央計画経済は忌避する。また政治的には、代表制民主主義が基本で、共産党一党独裁制も、軍事政権も、一人に権力が集中する超長期政権も忌避する。

資本蓄積が脆弱で国民間社会的格差の大きいラ米諸国では、政府補助による貧富格差是正や貧困対策が不可欠だが、そのために経済活動への政府介入を辞さない政権も出てくる。二十世紀末に米国流経済政策を導入した形の規制緩和や公営企業の民営化が、逆に貧富差を広げ貧困層を増やした、という声が、国民の支持を集めた結果だ。オバマ大統領は始めから、こうして左傾化が進んだラ米諸国と付き合っていくことになる。

オバマ大統領は、現金融システムへの規制を掲げ、行き過ぎた市場原理主義経済を批判する。また、自動車産業救済にも積極的なようだ。経済活動への政府関与と言う意味で、政策の共通性を見るラ米諸国からの期待も集める。だが、これはそれこそ米国発世界同時不況を呼ぶ未曾有の経済危機に対して、であり、市場主義経済そのものは擁護する。基本的価値観は同じだ。外交問題について、従来の政策に囚われず、誰とでも話し合う用意がある、と、言明、これがラ米諸国からの期待に繋がっていよう。

彼が就任後早速行ったキューバのグァンタナモ海軍基地にある捕虜収容所の閉鎖は、どこも歓迎する。対中東、対ロシア外交にも変化が見られる。早晩、対ラ米でも関係改善の動きが出る筈だ。ただ、彼には米国の伝統的民主主義が根付いている。各国の個別政策を巡り、軋轢は続こう。ラ米諸国側からの期待が大きいだけに、崩れた時の反動が気にかかる。

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