オバマ大統領就任に思う(2)
オバマ大統領の就任演説は、中南米政策に言及していない。一国の外交は、政権が交代しても継続性を保つのが常識だ。前政権とよほど重大な政治的対立軸が無いと、わざわざ触れることもないのだろう。ところが、中南米、つまりラテンアメリカ(ラ米。旧スペイン・ポルトガル領のイベロアメリカ)諸国側からみれば米国は飛び抜けて最大の貿易相手・出資元であり、国によっては百万人を超える自国からの合法・非合法移住者が住む国だ。1947年締結のリオ条約により米州集団防衛を主導する国でもある。米国の政策は、自国の国益に非常に重大な影響を及ぼす。就任演説に耳をそばだてる為政者は多かったのではなかろうか。
就任式の2日前、フェルナンデス・アルゼンチン大統領がハバナ入りした。同国から大統領がキューバに入ったのは、民政移管後の初代だったアルフォンシン以来23年ぶりのことだ。目的は経済関係の強化であり、経済界より大勢が同行した。滞在中、1時間以上、病床のフィデル・カストロと面会した。彼女によると、彼は、テレビでオバマ就任演説を聴き、強い信念を抱き、それを実行しようとしている大変誠実な人のようだ、と評し、非常に良い印象を持ったそうだ。米国はキューバに対し半世紀近い国交断絶と禁輸を続けてきた。近年は、経済制裁で毎年、国連総会で不名誉な非難決議を浴びている。キューバは1902年の建国から今日までの107年間の内、フィデル・カストロが一人で半世紀にも亘って最高権力者の座にあった。世界の民主主義のリーダーを自負する米国の価値観からは、遠い事実だ。歴代の政権がやれなかった国際的に不人気の制裁解除をオバマ政権では実現できるのだろうか。
フェルナンデスは次の訪問国、ベネズエラに向った。チャベス大統領のブッシュ政権時代の反米言動はつとに有名だ。彼はオバマ政権に期待を抱いた一人だが、近く大統領連続再選の回数制限を撤廃する憲法改定を巡り、オバマの「内政干渉」に神経を尖らせている。ベネズエラは1830年の建国からチャベスが登場するまでの169年間で、計75年もの年数を僅か3人が最高権力を担った。チャベスも連続16年間の大統領任期が確定している。過去半世紀に亘りキューバ以外のラ米諸国で、こんな長期政権はパラグアイにあった程度だ。やはり米国の価値観からは受け容れ難い面があろう。
ボリビアのモラレス大統領が2008年9月、米国大使を追放した。これにチャベス大統領も同調した。前者は反モラレス言動を強める4県(2007年12月に自治宣言を行った)の知事に対する支援がその理由で、直前にその内の一つパンド県で15名の犠牲者を含む150名の死傷者を出す事件が起きている。出自がコカ栽培農家のモラレスは、コカイン撲滅を訴える米国の圧力を受けながらもコカ農家を保護する。ベネズエラも麻薬貿易取り締まりに非協力的、という米国側の非難を受けてきた。この両国の大使級外交中断からの関係修復は、オバマ政権として喫緊の外交課題の一つではなかろうか。
米国の対ラ米関係で気になるのは、何も左派政権国ばかりではない。メキシコは麻薬の対米密輸ルートを抱え、強力な麻薬組織が暗躍する。加えて、1,200万人と言われる在米非合法移民の過半数がメキシコ人だ。さらに、かねてより彼自身はNAFTAに批判的だった。対応を間違えると、メキシコに潜在する反米意識が燃え上がりかねない。また、その流れで言えば、対中米・ドミニカ共和国自由貿易協定(CAFTA-DR)の扱いも注目すべきだろう。
南米唯一の右派政権下にあるコロンビアのウリベ大統領に対する国民支持率は高い。米国はこことの自由貿易協定(FTA)の批准を延ばしたままだ。加えて、オバマ大統領は、この国の労働権が侵害されている、として、FTAに反対してきた。米国を蝕む麻薬は、コロンビアが最大の供給国だ。以前の強力なカルテルが弱体化した、とは言え変っていない。この撲滅を目的に、ブッシュ前政権は巨額支援を実施した。プラン・コロンビアである。だが、コカ農家の転作支援だけでなく、物心に及ぶ軍事支援も含む。オバマ政権はどう変えようか。
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