リコールと対話と-ベネズエラ
6月24日、ベネズエラでマドゥーロ政権のリコールを請願する署名の有効化手続きが終わった。世界最悪のインフレ、深刻な物不足による国民の生活の困窮の経済危機の責任を問うものだ。署名し、且つ全国選挙評議会(CNE)の検証により認証された有権者が、CNEが設定した全国300箇所の「有効化センター」に出頭して行うものだが、全国の有権者の1%に当る20万人分の有効署名が集まれば、次の段階(同20%相当の400万名分のリコール賛成の署名集め)に進める。有効署名数は、最終的に41万近くとなった旨、リコールを推進している野党連合、「民主統一会議(MUD)」のリーダーである前大統領候補、カプリーレス・ミランダ州知事が明らかにした。だが、CNEから特段のコメントは、本日現在、伝わって来ない。
それより2ヶ月近く前の5月2日、MUDはCNEに196万万人分(6月10日付けでAP電スペイン語版が伝えたCNE発表の数字から計算)のリコール請願署名を提出した。CNEはこの検証作業に1ヶ月以上かけ、135万人分を認証した。他は死亡者、投票不能、罪人、若年、或いは他要件を満たさない、として排除した。昨年12月の議会選で、議席数で3分の1の少数与党に陥った「ベネズエラ統一社会党(PSUV)」の政権側http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2015/12/post-73f9.html は、これらを虚偽署名、と断定し、これを大量に集めたMUDのリコール請願自体の取り止めを司法に訴えた。一方MUD側は、カプリーレス知事が排除対象者には自分を含む反体制派政治家もおり、CNEによる作業は不透明、と批判している。外電報道だけを頼りにしている私には、MUDが必要な署名の10倍もCNEに出した理由も、実際に虚偽署名集めの批判への反論の無さも一向に理解できない。ともあれ常識的には次の段階に進める筈だ。
リコール投票に入れば、彼の2013年大統領選での得票数を超える賛成票で、マドゥーロ失職が決まる。だが新たな大統領選に移るには、リコール実施は彼の本来任期の2019年1月10日より2年前まで、つまり17年1月10日まで、が必須だ。その後だと、彼が任命した副大統領が大統領を代行することになり、実効性が失われる。請願署名400万を集めた後、これをCNEが認定し、90日後のリコール投票を告示、というプロセスを考えると、本当にできるのか、疑問にも思う。欧米メディアはCNEも司法の最高機関、最高裁判所も、政権寄り、と伝える。
5月末、南米諸国連合(Unasur)主導で政権側と反政権側との話し合いを模索する試みが、スペインのサパテロ前首相、ドミニカ共和国のフェルナンデスレイナ前大統領、及びパナマのトリホス元大統領を国際委員会の調停者として、ドミニカ共和国のサントドミンゴで行われたが、結局、調停者と夫々の代表者との個別会合になった。MUDは、実効性を念頭に2016年中のリコール投票実施、政治囚解放を話し合いの前提条件にする。
6月21日、米州機構(OAS)の常設評議会で、サパテロ氏がベネズエラ国内での対話の必要性について語ったが、MUDは、司法が立法府の決議を否定し行政の言いなりの、三権分立を侵害している現状を無視しており、リコールには触れないことを非難する。その一方で、マドゥーロ氏は国際委員会の努力を評価し、MUDに対話を呼び掛ける。だがリコールについては2016年内には有り得ない、と繰り返す。
その3週間前の5月31日、OASのアルマグロ事務総長は、ベネズエラに米州民主憲章の、最悪の場合当該国除名に繋がる「民主主義を損ねる立憲上の変更の存在」を適用すべく、6月23日に常設評議会臨時会議を招集し、そこで適用理由を述べる報告書を提出する、と発表した。彼はリコール投票実施と政治囚の解放を求める立場だ。ベネズエラ側は一主権国家の国内問題に韜晦し、事務総長職権を逸脱している、として臨時会議自体の取り消しに動いたが、結局開催された。だが、票決は行われずに終わった。
上述のサントドミンゴでの国際委員会と政権側、藩政権側との個別会合の後、6月4日に6月早々、サパテロ氏がハバナで、14年の懲役刑で服役中の反政権側リーダーの一人、ロペスに面会した。それまで各国の著名政治家が果たせなかったことだ。同時に、ハバナで開催された第7回「カリブ諸国連合(25カ国で構成)」サミットで、上記の対話の努力を支持する旨の声明が発せられる。理解、対話及び憲法遵守の手続きの全ての努力"への支持、と表現された。主催国のラウル・カストロ議長、マドゥーロ、ソリス(コスタリカ)、サンチェスセレン(エルサルバドル)、メディーナ(ドミニカ共和国)各大統領が出席した首脳、として名が挙がっている。
いがみ合うのではなく対話で解決して欲しい、との国際社会の声は心地よい。ただ対話は、リコール投票手続きの中止、或いは実効性の無い2017年1月10日以降への先延ばしに繋がりかねない。